茨島
臨海通りを北から茨島に進むと、平屋の商業施設が見えてくる。
そこには首なしライダーが出没するという噂だ。
昔、バイクで走っていた若者が駐車場のロープに引っかかって死亡した。
それ以来、首を求めて夜な夜な付近を彷徨っているという。
フィクションの人物、田村氏においでいただこう。
田村氏は青森出身、恐山で功徳を積んだイタコの系譜の人物である。
田村氏によると、商業施設は元より、付近の農協ビルこそ一帯の怪奇現象と関係があるそうだ。
首なしライダーはビルも走るという。
バイクは二気筒の大型であるとの事。
グリーン… と田村氏は一言呟いた。
バイクの色なのか、バイクの種類を指すのか。
秋田では一次産業である農業が盛んだ。
農協の力は絶大なものがある。
そこで噴出したJA秋田おばこの不正会計問題。
田村氏は、不正により付近に悪い影響を与えていると述べる。
巨額の赤字を計上した事件だけに、なまはげもひっくり返ったというのだが…
小雨が降る中、田村氏のお祓いが始まった。
産土神に頼って土地を浄化する儀式である。
「運薩婆訶、運薩婆訶」
田村氏が数珠を持ってお神酒をあげながらお祓いを執り行う。
途中、田村氏に危険が迫った。
体が重くなり雨が勢いを増す。
「運薩婆訶!運薩婆訶! 悪鬼退散! 悪鬼退散!」
田村氏は大音量で声を張り上げる。
その眼には力が宿っている。
憑依を心配していたのだろうが、田村氏は立ち直った。
お神酒を口に含む田村氏。
勢いよく霧を放出する。
これで悪鬼も元の世界に帰ったようである。
田村氏は最後こう言い残した。
「この土地では虫送りをしているようですが、猫の御姿がイメージとして流れ込んできました。
猫じゃらしをお供え物にするといいでしょう。」
民話である。