カンガルー・ノート
著者の最後の長編。
ある日突然、かいわれ大根が脚のすねに生えた男。
訪れた病院で硫黄温泉行きを告げる医者に見送られ、主人公は自走するベッドとともに不思議な冥府巡りの旅に出発する…
本書には医学的な内容がいろいろ出てくるので、著者はさすがに医学部出身だなと思いながら僕は読んだ。
巻末の解説によると、この小説のテーマは死だという。
著者は何年も前から死と戦っていたみたい。
前衛小説? なのかなと思ったが、本作は私小説とのこと。
死が身近に迫った著者の幻想的な私小説だったのだろうか。
そこでアマゾンのカスタマーレビューを読むと、死を笑い飛ばし、矮小化する意図があったと書いている方がいた。
なるほど、そういうことだったのか~
また、最後の一文が切ない名文だと書いている方もいた。
たしかに最後の7章、「人さらい」のラストと、登場する歌は印象的だ…
死というものはなんとも切ない。
アマゾンレビュアーには賢い人たちがいるものだなぁ。
解説には次のようにも書かれていた。
現代日本の小説家の中で一番自分の体験や自分の感情を隠したのは安部さんであった。
(中略)
多くの作家が自分の感情を誇張した形で小説に盛り込むことに反して、はにかみ屋だった安部さんは自分の深い感情の周囲に数多くの壁を建て、壁の中に隠されている自分を発見できる読者を待っていた。
(『カンガルー・ノート』再読 ドナルド・キーン (著) p.217)
ふむふむ~
こういう姿勢はかっこいいな。