闇の中の男
著者が9・11を、初めて、小説の大きな要素として描いた作品みたい。
巻末の訳者あとがきを読むと、著者はニューヨークのブルックリン在住ということで、事件から受けた衝撃が大きかったことが想像できる。
僕は知らなかったが、その後のアメリカでは、多くの作家が9・11を感じさせる作品を発表しているのだな。
本書の内容は次のような感じ。
ある男が目を覚ますとそこは9・11が起きなかった21世紀のアメリカ。
代わりにアメリカ本土で内戦が起きているという…
現実と虚構が混ざりあっていく様を感じた。
その他、小津安二郎監督の東京物語について述べられたり、物語の物語が存在したり、主人公の祖父と孫娘の間で家族の秘密が語られたりする。
(実のところ、僕は東京物語を見たことがない)
そして最後に明らかになる悲劇は、9・11当時のアメリカの政権に対する、作者の怒りが表されているのだろうか。
でも政治的な主張を込めるだけでなく、作品として全体的にバランスよく昇華されているところがこの著者らしさなのかなと思った。
まぁ訳者あとがきを読めば、僕の書いたようなことはうまくまとめられているわけで、訳者の人もすごい。