現代の地獄への旅
15篇の短編集。
日常世界の裂け目から立ち現れる幻想領域へ読者をいざなう。
どれも面白かった。
中編はミラノ地下鉄の工事現場で見つかった地獄への扉。
地獄界の調査に訪れたジャーナリストが見たものはという物語。
「卵」と「甘美な夜」などが印象的だ。
形而上学的な話があって、ドキドキした。
訳者あとがきによると著者の小説の頻出テーマであるという。
僕にも書くことができそうだ。
本書では虫が出てくる。
虫というと蝶は美しいな。
モンシロチョウ、モンキチョウ、アゲハチョウ…
素数ゼミという蝉がいるらしいが、奇数チョウという蝶を想像する。
奇数の月々だけイモムシで生活し孵化するのだ。
羽根は最大公約数を彷彿とさせる。
お気に入りの花は背理花だ。
ピーキュー、ピーキューと鳴くという伝説もある。
天国に永遠の住処をかまえた老画家アルデンテ・プレスティナーリは、ある日、友人たちに、地上に降りてヴェネツィア・ビエンナーレを見てくると伝えた。
(p.104)
「ヴェネツィア・ビエンナーレの夜の戦い」という萹が面白かった。
僕はヴェネツィアを訪れた事がある。
パスタを食べて来た。
水上バスが運行しており、海上都市の名にふさわしい。
サン・マルコ広場は壮麗だった。
一度は行きたい名所である。
ARIAという漫画の舞台でもある。
日本人の観光客も多かったな。
ここで再び虚構の人物、滝三刈氏に登場してもらおう。
滝三刈氏は上野恩賜公園を歩いていた。
西郷隆盛の像を脇目に道を急ぐ。
横にはトートバッグをかけている。
ビスタという車の絵が描かれたものだ。
滝三刈氏はこの車が好きなのだろうか。
スーツ姿で公園を闊歩していた。
見えてきたのは国立西洋美術館だ。
ル・コルビジェの弟子が建てた建築だ。
入口にはロダン作、ダンテの神曲で有名な地獄の門の彫刻がある。
ゴーギャンの展覧会を見に来た滝三刈氏はふと足を止めた。
小入道が彫像を見ながら唸っている。
「おい、どうした。」
「うわ、びっくりした。いや、この門には閂が付いてないのかと思いまして、眺めていたのです。」
「なに、錠前かかたつむりかは知らんが、このまぬけめ。
貴様は印象派の目玉野郎か?」
「あっしは新バタン派を名乗っています。
インフェルノの玄関という事で長屋の引戸とはいかんでしょう。」
「うるさい!
この口だけトンボが!
どうせミュージアムショップにたむろしている下劣な、馬鹿な一団の一味なんだろう!
このめちゃりめが!」
滝三刈氏は拳を振り上げるとポカポカと殴りかかった。
数分後、勝利を収めた滝三刈氏は意気揚々と美術館内に入っていった。
「何が考える人だ。ロダンの潮流はアントレプレナーには相容れない。ロダンの谷、ロダンバレーとはなり得ない。」
滝三刈氏はデジタルネイティブを標榜しているのだ。
裸婦の絵画を鑑賞し、滝三刈氏の男根は屹立した。
「キモ。」
その時声が聞こえた。
滝三刈氏はハッと振り返った。
そこには制服姿のJKがいた。
「私に対してなんという侮辱か。」
滝三刈氏が一歩踏み出すと、JKは横を向いた。
そこにはJKの彼氏が立っていた。
滝三刈氏はいまだ女性を知らない。
一言悪態でも吐こうと思った滝三刈氏は小さくなって扉の方へ向かった。
超文化的陰唇が捲出したのだ。
その時何かを思いついた滝三刈氏はスマートフォンを取り出し、AirDropで画像を送信し始めた。
画像を送信するやいなや、滝三刈氏は駆け足で美術館を後にした。
しかし、JKのスマートフォンはXperiaだ。